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News11 中高一貫校がますます大学受験で有利なワケ ー 6年後のセンター試験廃止でも凋落しない

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おおた としまさ :育児・教育ジャーナリスト

2015年02月12日 東洋経済オンライン

今年も中学受験のシーズンが終わった。終わったそばから気の早い話に聞こえるかも知れないが、2015年に私立や国公立の中学受験に挑んだ今の小学6年生が、高校卒業を目前にする頃の2021年の大学入試から、センター試験が廃止されることがほぼ決まっている。代わりに2段階の「到達度テスト」が実施されるというのが、現時点での見込みだ。

国公立大学の2次試験においては、いわゆる「脱ペーパーテスト」へという青写真が描かれている。大学入試が脱ペーパーテスト化すれば、これまで高い大学進学実績を誇っていた中高一貫校が凋落するのではないかという憶測もあるようだが、多分そうはならない。結論から言えば、この大学入試改革は、中学受験に合格して、この春、中高一貫校に進学する子どもたちに有利に働きそうだ。

センター試験の代わりは到達度テスト

センター試験に変わる「到達度テスト」は、基礎編に当たる「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と発展編に当たる「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の2段階で行われるという。簡単に言えば、前者は高校で学ぶべき基礎が身に付いているかどうかの確認、後者は大学に入学するために必要な学力が身に付いているかを確かめる。これらを高校在学中に複数回受験できるようにして、自分の納得がいくスコアを大学に提出するという構想だ。

こうなると中高一貫校生には有利な展開となりそうだ。中高一貫校では、中学生のうちに高校での履修内容にまで踏み込んで学習する場合が多く、学力の仕上がりが早い。例えば兵庫県の名門、灘校の生徒たちは、高校1年生の1月に、高校2年生用のセンター模試を受験する。その時点で、センター試験に対応できるだけの学力が身に付いてしまっているのだ。

少なくとも「高等学校基礎学力テスト(仮称)」に関しては、灘に限らず、多くの中高一貫校で早々に満点を取ってしまう生徒が続出するのではないだろうか。「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」についても早い段階でハイスコアをたたき出す生徒が出そうだ。早めに「到達度テスト」をクリアしてしまえばその分、各大学の個別選抜(現在の2次試験)対策に時間をかけられる。

各大学の個別選抜においては、「小論文」「面接」「集団討論」「プレゼンテーション」「調査書」「活動報告書」「資格・検定試験」などの成績、各種大会などでの活動や顕彰の記録などを活用するという方針が検討されている。簡単に言えば、新卒の就職活動のような形式だ。これが本当のAO入試(アドミッション・オフィス入試)である。

一部の大学で、AO入試が単なる生徒の早期囲い込み施策として利用されてしまっているため、このところ評判が悪いが、欧米の大学ではこの方式が主流であるし、慶應湘南藤沢などではこれがうまく機能している。2016年からは東大と京大が推薦入試枠を設けることも発表されている。「脱ペーパーテスト」へ向けての布石と考えられる。

新しい大学入試制度は中高一貫校に有利

中高一貫校では高校受験対策の必要がないから、中学のうちは目先の1点、2点を気にせずに学習できる。理科の実験・観察、社会のフィールドワークやディスカッションに時間をかけ、英語や数学、国語など、受験の主要科目においても、調べ学習やレポート形式の課題が多い。みずから課題を発見し、解決の手段を探り、論文にまとめる訓練を繰り返している。「詰め込み」とは真逆の「真のゆとり教育」を行っているのだ。

そうやって特に中学のうちに学力の土台を広げておくから、最後の1年間、受験勉強をがんばれば、効率良く高い学力が身に付くのだ。だから大学入試で結果を出すことができる。

さらに、名門校と呼ばれるようないい学校ほど、実は大学受験に特化した授業をしていない。まさにリベラル・アーツと呼べるような、教科横断型のアクティブラーニングを行っている場合も多い。大学レベルと思えるような内容のものまである。海外研修を行う学校もある。詳しくは拙著『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)(2月13日発売、税抜860円)に記した。

これらの学びの体験はそのままAO入試で求められる学力の素地となる。

名門校と呼ばれるような学校の生徒たちは「ペーパーテストの達人」というイメージをもたれているが実際は、彼らはペーパーテストだけができるのではない。総合的な学力の一部として、ペーパーテストでも高い成果を上げることができているのである。各種国際科学オリンピックや英語スピーチ大会、数学オリンピックなどで活躍する高校生に、名門校と呼ばれるような学校の生徒が多いことが、その証左と言えるだろう。

大学入試改革で議論されているような「新しい学力」は、付け焼き刃で身に付けられるものではない。本物の学びの体験を積むことで蓄積される。そもそも時間がかかるものなのだ。その点、中高一貫校生には6年間という時間がある。途中高校受験に時間を取られることもない。中等教育で「新しい学力」を身に付けるには、中高一貫校のほうが有利と考えられるのだ。

ところで、国際的には小学校を「初等教育」、大学以降を「高等教育」と呼ぶのがスタンダード。日本の中学・高校に相当する教育は「中等教育」と呼ばれる。初等教育は基本的に目に見える具体的なものを取り扱う方法を学ぶ段階。中等教育では、代数や化学のような、目に見えない抽象的な概念を取り扱う方法を学ぶ。それぞれに一定の時間がかかる。カリキュラムの一貫性も必要だ。

だから多くの先進国では、中等教育を中学と高校で分けていない。そのほうが中等教育の役割を果たすうえで理にかなっているからだ。

先ほどまで、まるで中高一貫校の宣伝のような話ばかりに思えたかもしれないが、中高一貫校のほうが子供たちの「新しい学力」を伸ばすうえで有利だというのは、実は世界の常識からすれば当たり前なのだ。日本では、中等教育の内容を半分に分けて3年区切りで試験を行うから、どうしてもそれぞれの範疇での知識を詰め込むだけの学習およびその成果を試す入試になりがちなのだ。

日本に欧米式の大学入試は成り立つか

そして、私が一番気になるのは、現在行われている大学入試改革の方向性と、中等教育以下の教育行政の方向性がちぐはぐであることだ。

例えば都立高校は先の採点ミス問題を受けて、マークシートの導入を決めた。大学入試改革の流れに逆行している。いわゆる「中1ギャップ」を解消するために、小中一貫校も推進されているが、その発想はあまりに安易に映る。初等教育から中等教育へはギャップがあって当然。それをどうにか乗り越えさせるのも教育の一部だ。それをだましだましやりすごすというのは問題の先送りでしかない。中等教育の一貫性もますます薄れるだろう。

今回の大学入試改革の方針は、各大学の個別選抜のAO化にしても到達度テストの導入にしても、欧米の大学入試を雛型にしていることは明らかだ。つまり、過渡期とはいえ、いまのままでは日本式の特殊な中等教育の上に、欧米式の大学入試が据わることになる。このアンバランスが何をもたらすのか、注視が必要だ。

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